梅雨明けが待ち遠しい今日この頃ですが、今年も雨降りの庭では、アジサイやクレマチスなど、次々と花を咲かせ、楽しませてくれました。
一方、こんな現象も!丸坊主のサクラ、虫食いだらけのカキノキです。
ここは、長野県南部に位置する伊那市高遠町。地域一帯で大量発生しているマイマイガの仕業です。
10年周期でやってくる、おぞましい現象!
マイマイガは、10年ほどの周期で大量発生し、終息するまでに2~3年程度かかると言われています。日本全国で生息する在来の蛾(ガ)の一種で、各地で年を変えて大量発生します。
幼虫は、主にサクラ類やカエデ類など広葉樹のほか、カラマツやスギなどの針葉樹、場合によって、稲や小麦といった農作物を含め草本も食害する広食性が強いケムシです。
成虫期には、建物の外壁や電柱などにビッシリ張りつくほどの状況にもなり、住民からの苦情や相談が殺到、各自治体が駆除などの対応に追われるという、いわゆる「害虫」の扱いとされています。
まずは敵を知ろう、マイマイガの生態(生活環)について
マイマイガは、年1回の発生で、越冬した卵塊から春にふ化し、夏成虫になると7~10日程度で寿命を迎えます。
地域の資源も脅かす!マイマイガ大量発生の脅威。タカトオコヒガンザクラも危ない?!
害虫とされるマイマイガ、何が一番問題となるのでしょうか?
平常時ももちろん食害はありますが、もともとマイマイガは、集団ではなく、単独行動が好きなので、食害が植物の生育に大きく影響をもたらすほどとは言えません。
しかし、周期的に訪れる大量発生時は...?
ケムシによる食害。その旺盛な食欲は、樹木を丸坊主にしてしまうほどの威力があります。また、ケムシが樹木のそこら中にいる様子、ガが街灯のもと電柱を一面埋め尽くすように集まっている様子は、とにかく気持ち悪い!
落葉性の広葉樹やカラマツは、仮に食害によって丸坊主にされても、樹木そのものが枯死することはあまりありません。健全な樹木(落葉樹)であれば、数週間で葉が再生してくるからです。
ただ、被害木がもともと元気のない状態であれば、やはりダメージは大きく、やがて枯死させてしまう危険性もあります。それが地域の重要な観光資源となっていれば、なおさら、その勢いを抑えなければなりません。
また、果樹や農作物へ被害が及べば、農家にとって大きな問題となります。
ここで紹介している地域(伊那市高遠町)は、サクラ(タカトオコヒガンザクラ)が一番の観光資源となっています。地域ぐるみで少しでもこの勢いを抑制すべく、駆除協力の呼びかけがなされているところです。
大量のマイマイガを終息させる手ごわい天敵
マイマイガの大量発生と、その後、自然に終息するメカニズムは、まだすべてが解明されているわけでないですが、そこにはやはり、よくできた生態系のカラクリがあるようです。
一般的に、幼虫期(毛虫)の天敵(捕食者)は、鳥類やスズメバチ、その他の肉食系の昆虫類等です。
しかし、マイマイガの大量発生の終息には、もっと強力な天敵が関わっていると言われています。それは、“ゾンビウイルス”とも呼ばれるバキュロウィルスや、寄生蜂(ブランコサムライコマユバチ)等です。
幼虫をゾンビ化させ行動をも操るウイルスや、幼虫の体を乗っ取ってしまう寄生蜂。マイマイガが大量発生すれば、こうした手ごわい天敵も追うようにして大流行・大発生し、自然に終息していく。つくづく生態系は、実によくできたものと考えさせられます。
おそらく、今年もたくさんの卵が産みつけられます。出来る限りの対策(卵塊の除去)をしたとしても、人間の力には限界があり、来年も一定の大量発生となるでしょう。
私達ができることと言えば、少なくとも、自然に終息するこの生態系の仕組みを崩さないことだけのように思います。
来年以降も、マイマイガの終息(大量死!?)を見届けるべく、注視していきたいと思います。
おわりに
今回のコラム執筆にあたり、創作した段ボール製観察箱の中で、とうとう羽化しました。
そして、家の周りでは、今日も沢山のオスたちがマイマイガ(舞舞蛾)の名の通り、華やかに乱舞し、メスたちの羽化を待ち構えています。さっそく産卵中のメスも見つけました。
大抵の虫は大丈夫な私でも、さすがに大量のケムシは、おぞましく、ただただ不快な存在でしたが、今回間近で観察を続け、マクロ写真を撮影することによって、単体では結構可愛らしいとすら思えるようになってしまいました。(愛嬌あるたれ目の顔、ジブリ「となりのトトロ」メイちゃん張りのツインテール、背中に列状に並ぶ点の青と赤のきれいな色味、器用にがっちりつかむ複数の脚とその形、等々)
くしくも、この観察期間中に、地元劇場で上映されていたジブリ「風の谷のナウシカ」を久しぶりに観ました。
映画の中で登場する巨大生物「王蟲(オーム)」の大群がマイマイガ(幼虫)の大量発生をイメージさせ、また、マスク装着が必須の「腐海(ふかい)の森」が今のコロナ渦と重なり、映画を観ながら、現実といろいろがシンクロしてくる感覚を覚えました。
毎年のように起こる異常気象による自然災害と合わせて、自然界のバランスを崩す行き過ぎた人間活動を思い浮かべながら、人間と自然との共生って何だろう?と改めて考えさせられているところです。