パクリたい!

 新しい事業を考えたり新商品を開発する時には、まずは自分たちのやりたいことのヒントが何かないかとリサーチを行います。

 そのために参考になりそうな場所に視察に行ったり商品を購入したりしますが、端的に言えば

「何かパクれそうなネタはないかな」

 ということになります。

 結果、世の中はパクリがあふれることになります。

 車やスマホのデザインはちょっと離れて見れば似たり寄ったり。アイドルグループもおじさんには見分けがつかないグループがたくさんあります。100円コーヒーもいつの間にやらどこのコンビニでも買えるようになりました。

 時にはチャレンジングなコンセプトやデザインの新サービスが生まれるものの、追随する企業が参入し、消費者のニーズを突き詰めていった結果は似たり寄ったりのものとなり、細かな工夫によって差別化を図ることになります。

アイデアを考えるヒント

 アイデアとは天から降ってくるものではなく、自分が今まで見たもの、聞いたもの、読んだもの、経験したことの中からしか生まれないと思っています。

 仕事中だけではなく、日々の暮らしの中にも仕事のヒントとなるものはあふれており、遊んでいる最中でもテレビを見ている時でも「これ仕事にパクれそうだな」とついつい考えてしまいます。

 これまでたくさんの「人が集まる場所」を見てきましたが、“一度行ったのでもうOK”という所から、“これはすごいな、また行きたいな”という所まで様々な場所があります。

 こうした場所の中で、思わずパクりたいと思ってしまった「これはすごいな、また行きたいな」という場所をいくつか紹介したいと思います。

農村の観光地

 中国の古都、陝西省西安の郊外に『袁家村』という場所があります。

 西安と言えば始皇帝のお墓や兵馬俑といった有名な観光施設もたくさんあるところですが、『袁家村』は中国の農村風景を再現して作られた一見どこにでもありそうなテーマパークのような所です。

 初めて訪れたのは2012年のことです。予備知識は全く無く、ちょっと面白いところがあるので見に行きましょうと連れていかれた場所でした。

 車を降りて村の中に足を踏み入れるまでは、特に大きな期待もなく、村の入り口らしき所の見た目もよくある農村風景を再現した公園のような感じです。

 村の中を歩くにつれて、なんかちょっと雰囲気が違うなーと感じ始めました。

 何だか本当に人が暮らす街の中を歩いている気分になってきたのです。

 飲食店やテイクアウトのお店、土産物店などが立ち並んでいますが、こうした場所にありがちなものが無いのです。

〇入りなさい見ていきなさいという呼び込み

〇他の店よりもちょっとでも目立とうとする派手な看板

〇いかにもチェーン店ですという雰囲気のお店や商品

何とも言えない雰囲気を醸し出せるのには理由がありました。

◎村の運営は地元住民が出資した組合のような組織。

◎呼び込みは禁止で中国ならではですが約束を破らないように各店舗に監視カメラを設置

◎テナントは陝西省の事業者に限定 ◎新規出店して赤字が出た場合は一定期間は運営組織が補填

 2度目に訪れたのは2016年です。

 西安を訪れた際に、もう一度行ってみたくて連れて行ってもらいました。

 街並みが少し広がったかなーという感じがしましたが、相変わらずいい雰囲気で、4年前にもあったお店や商品も残っています。

 しかし大きな変貌を遂げていました。村の入口はるか手前から広大な駐車場が整備されていました。訪れた日は平日でしたのでそこそこの混雑ぶりといった様子でしたが、週末になると1日数万人が訪れる観光地になっているとのことでした。

食品メーカーの集客施設

 新潟県南魚沼市に『魚沼の里』という施設があります。

 日本酒好きの方ならご存じの銘柄「八海山」の蔵元「八海醸造」が運営する施設です。

 ここを初めて訪れたのは2014年。

 この施設の運営者の方と海外の視察ツアーでたまたま知り合いになり、気になっていた場所でした。

 海外のお客様を日本のいろいろな集客施設にご案内する機会があり、自分の興味もあってこの施設を視察場所に組み入れてみました。

 米どころ魚沼の自然に溶け込むように、酒蔵、飲食店、工房、ショップなど様々な施設が点在しています。

 男性ばかり10名ほどのメンバーでの訪問となりましたが、とても場違いな場所でした。

 日本酒をたしなむ女性もたくさんいますが、何となく日本酒=男性という先入観があり、日本酒を飲みながら楽しむ場所といったイメージをもってお伺いしましたが、完全に覆されました。

 当然お酒も取り扱ってはいますが、それ以上に地元産材を使った食べ物や商品が充実していて、そのセンスも田舎とはとても思えないものです。

 はっきり言って男(特におっさん)は全く眼中にない施設です。

 実は八海山は東京の一等地でも“麹”をテーマにしたアンテナショップを出店していたりもします。

“財布のひもは誰が握っている?”

 ということを嫌というほど見せつけられる場所でしたが、男性諸君も大変勉強になったツアーだったのではと思います。

 その後もう一度訪れていますが、その時も仕事がらみでしたので、今度は家族や友人と遊びで訪れてみたい場所です。

 神奈川県小田原市に『かまぼこの里』という施設があります。

 ここは老舗の蒲鉾メーカー「鈴廣」の運営する施設です。

 お正月の風物詩“箱根駅伝”の小田原中継所にもなっている場所ですので、テレビで見たことのある方も多いと思います。

 前職の職場にこの施設のスタッフの方が視察に来ていたような覚えがあり、箱根に遊びに行ったついでに立ち寄ってみました。

 蒲鉾と言えば旅館の朝食や居酒屋のおつまみ、あと思い浮かぶのはお正月の紅白蒲鉾ぐらいでしょうか。主食にはならずに食卓ではちょっと脇役といったイメージがあります。

 ここも『魚沼の里』と同じく、良い意味でイメージを覆される施設でした。

 おしゃれな蒲鉾、面白い蒲鉾、蒲鉾を学ぶ、蒲鉾で楽しむ、いろいろな要素がぎゅっと詰め込まれています。

 一言でいえば「子供も楽しい蒲鉾店!」

パクりたい理由

 その場所場所で何に関心が向き、思わずパクりたいと思うポイントは人それぞれだと思います。

 自分にとっては“先入観と実際に訪れてからのギャップが大きい場所そのもの”になります。

 ご紹介した場所はいずれも行く前に持っていたイメージを良い意味で見事に覆されました。

 そして共通しているのは、地域や自社の製品などに徹底的にこだわっていること。自社のPRのみならず地域の歴史や伝統、文化や自然などにも視線を向けていること。

 その結果、「お金のにおい」がしない場所となっているのに、気がつけばお財布のひもが緩んでいるのでした。

Written by 小森