仕掛人×仕掛人インタビューがいよいよスタートします。社内から飛び出したお一人目は、到津の森公園の園長の岩野俊郎氏にインタビューを実施いたしました。動物園業界では知る人ぞ知る岩野氏から、とても楽しいお話が聞けました。
しかし、あまりに長くなってしまったため、小冊子にまとめさせていただきました。おかげ様で大好評で、到津の森公園のロビーにも置いていただいています。是非、ダウンロードいただきお時間あるときに読んでみてください。
ご感想やメッセージもお待ちしております。頂きましたメッセージ等は岩野氏にお届けさせていただきます!
下記に「はじめに」と目次を掲載させていただきます。是非ご覧ください!
はじめに
到津の森公園がオープンしたばかりの時に事件は起りました。チンパンジーが脱走したのです。その時、岩野園長と僕は、走って追いかけました。かなり走ったところで、彼(ケン)も疲れたのか止まりました。そこで、なんと岩野氏は「ジュースを買ってこい!」と僕に言ったのです。僕は意味も分からず、とりあえず、缶ジュースと缶珈琲を買って戻りました。
目の前の岩野氏は、「こいつは小さい頃から知っているから、手を繋いで帰るんだ!」と真顔で言うのです。たくさんのメディアが押し寄せ、頭上にはヘリコプターが飛んでいます。チンパンジーと言っても、体格は人間と変わりません。いつもは檻の中にいる彼を、目の前にするととても大きく感じます。
岩野氏は手渡しでジュースを渡しました。なんと、それを彼は飲んだのです。そして、岩野氏は語りかけます「遠くまできたなぁ。疲れただろう?そろそろ帰ろうやー」。ヘリコプターに乗っている人たちは、上からこの光景をどう見ていたのでしょう?
残念ながら、彼はジュースを飲み切った後、僕たちを置いて歩いていきました。そのチンパンジーは、その日のうちに無事に捕獲できました。
しかしその後、別のメスのチンパンジーが園内で新しく建てられた高い塔から落ちて死んでしまいました。不思なことに、落ちた後、自らふたたび塔に登り、最上部で動かなくなったのです。その傍ら、ケンは雪が降るのに一晩中、ずーっと寄り添っていました。
なぜ、彼は逃げたのか?なぜ、彼女は落ちた後、再度塔に上ったのか?なぜ、彼は彼女のそばを離れなかったのか?その後、自分の手が動物の血で染まったこともあり、「命」を触っているんだという畏敬の念で身体が震えた瞬間もありました。
「到津の森公園」の設計監理を担当することになった当時の僕は、28歳。社会人として駆け出しでした。同時に人間としても、とても未熟で会社的にもお荷物だったに違いいありません。そんな時期に岩野氏に出会いました。岩野氏からは動物園や動物のことだけでなく、人として、動物として多くのことを学びました。
出会ってから、約 20 年。今回の取材の目的は、岩野氏が考える「理想の動物園」をより多くの人に知ってもらうことでした。しかし、話の内容が予想以上に濃く、「命」と向き合うことの多かった 2020 年、まさにタイムリーだと感じ、小冊子というカタチにまとめることにしました。「ノンイベント、ノンズーなんだよ」という岩野氏の話を聞いてください。そして、是非、ファンである北九州市の市民の皆さんと共に、到津の森公園に保育園をつくって欲しいのです。高齢者施設も一緒に建てたいというから、岩野氏はきっとそこで子どもたちと日常を過ごしたいのでしょう。
そうして、日ごろから応援いただいている市民や企業の皆さん、行政や教育者の皆さんと共に、世界的に例を見ない「動物園を活用した“教育と福祉の地域エコシステム”の構築」に残りの人生をかけるに違いありません。
目次
- はじめに
- 1.動物園を哲学しよう
1.1 ケン、そろそろ帰ろうや
1.2 ナオは、自ら手を離した
1.3 日本で初めてのキリンへの麻酔
1.4 設計で良かったところ
1.5 獣舎の床を土にするといったら反対された(笑
1.6 ズーラシアの小型版は嫌だ
1.7 動物の哲学 - 2.動物園で育ったチンパンジーは交尾ができない
2.1 動物園がなければ、動物園の問題はない
2.2 チンパンジーもゾウも群れで生きている
2.3 シファカの横っ飛びと動物園の教育
2.4 「展示」と「飼育員」 - 3.「倫理」という考え方
3.1 今どきのIoTを利用して
3.2 自然の入り口としての動物園
3.3 いい動物園とは
3.4 誰しも、都合の悪いことは隠す
3.5 これからの動物園のあり方 - 4.エシカルな動物園へ
4.1 動物園の機能と起源
4.2 動物園とサイエンス
4.3 動物園の経営
4.4 動物園の6次産業化
4.5 動物園とSDGs
4.6 ゾウもキリンもいない動物園
4.7 花鳥風月な動物園があったら
4.8 地域の未来をつくる動物園 - 5.岩野俊郎という人間