3番目を担当のあべです。
野球でいえば強打者3番バッターですが、前者 岩野・小菅の論客のあとでは正攻法は無理なので小枝でいきます。
50年前、1972年に旭山動物園にはいり、以来25年間飼育係をしました。退職し、地球を旅し、絵を描いて28年。その間、常に自然と動物に接し、自問自答をしてきました。その折々の話です。
第1話 飼育係は “ 通訳者 ” である
飼育係は野生動物と人間との “ 通訳 ” です。これは他のどんな職業にもありえない飼育係だけの特別な “ こと ” です。動物の言葉は “ 身ぶり ” です。しぐさ、におい、ジェスチャー、行動、習慣、体型など、その一つひとつがメッセージとして豊かに表れます。無言で、それでいてとても有弁な言葉です。たとえば、スカンクの “ くささ ” は地球最強、強烈な言葉です。ヤマアラシの針は姿、形も含めこれ以上ない危険な言葉です。ウグイスのさえずり、キツツキのドラミングはとても美しいラブソングです。
それらのことを、人間界に通訳できるのは飼育係しかいません。動物園の野生動物たちはしょっちゅう飼育係の私たちに話しかけてきました。
「コンクリートの床はあしがいたい。土にしてくれ。」
「あつい。木かげがほしいぜ。」
「繁殖期が終わったら、ひとりにしてほしいわ。」
そんな彼らの “ 言葉 ” を理解できるまでに、私は10年以上かかりました。そして、彼らの要求を具現化し、市民に通訳するのに、さらに5年かかりました。
今は『絵本』という形で、野生動物との通訳をしているつもりです。そのことは、次回以降でお話ししましょう。
寄稿者profile
あべ弘士(あべひろし、1948年-)
略歴
1948年 北海道旭川市生まれ。旭川市在住。
1972年から25年間、旭山動物園の飼育係として様々な動物を担当する。飼育係たちの間で話し合った“行動展示”の夢を絵として残し、旭山動物園復活の鍵となった。1996年動物園を退職し、現在は絵本制作を中心に、全国でワークショップなども行なっている。2011年には、こどもも大人も楽しめるアートスペース「ギャラリープルプル」の運営をはじめた。
著書に『あらしのよるに 』(講談社出版文化賞絵本賞受賞)、『ゴリラにっき』(小学館児童出版文化賞受賞)、『宮澤賢治「旭川。」より』(経産児童出版文化賞美術賞受賞)、『クマと少年』(日本児童ペン賞絵本賞・北海道ゆかりの絵本大賞受賞)など250冊を超える。
著書
・「あらしのよるに」講談社
・「どうぶつえんガイド」福音館書店
・「クマと少年」ブロンズ新社
・「新世界へ」偕成社
・「エゾオオカミ物語」講談社
その他多数