第4回:子どもたちに教わったこと。
4-1 NHKラジオ「子ども科学電話相談」
NHKラジオで放送されている番組に「子ども科学電話相談」があります。
今年で放送開始から40年になる長寿番組です。当初は夏休み期間だけの放送でしたが、人気が高まり現在は毎週日曜にレギュラー放送されています。
科学相談というだけあって扱う質問は、天文・宇宙、天気・気象、鉄道、植物、そして動植物と科学全体にわたっています。
動物に関する質問は札幌市円山動物園参与の小菅正夫さん、埼玉県こども動物自然公園園長の田中理恵子さん、私の3人が順番に担当しています。
冷や汗をかきながらではありますが、質問されるお子さんの年齢に応じて言葉を選び、できるだけわかりやすく回答するように心がけています。私は2013年7月から出演させていただいています。回答者として10年以上の経験があるものの、いまだにうまく答えられたためしがありません。毎回、こう答えればよかったという反省の連続です。
4-2 「命はどこにあるのですか?」
お子さんの質問力には素晴らしいものがあります。
私も子どものころは、このような能力を持っていたはずです。
しかし、大人になるにつれて素直に現実を見ることができなくなり、こんなことを質問すると笑われるかもしれないと自分を取り繕う姿勢が前面にでていることに気づかされます。
私が受けた質問で特に印象的だったものに、学齢前のお子さんからの「命はどこにあるのですか?」があります。質問されたお子さんに「あなたはどこにあると思いますか」と尋ねると、「足ではないと思う。なぜなら足で踏んじゃうと痛いから」という答えが返ってきました。
「いのち」はどこにあるのという質問も哲学的で素晴らしいですが、「足で踏むと痛い」というお子さんの優しさには感激しました。
「ゾウの鼻は何故、長いのですか?」
「動物は何故、服を着ないのですか?」
「人間は歯を磨くのに、動物が歯を磨かないのは何故ですか?」
「うさぎの食事をまねしたら元気が出たけど顎がつかれました。草食動物は草ばかり食べているけど、どうやってエネルギーを得ていますか?」などなど
どれも答えを知りたい素敵な質問です。これらの質問はお子さんが動物の姿や行動の不思議を考える場合、自分の経験がもとになっているように思われます。
4-3 動物園の未来
お子さんから質問を受けるたびに、私たちの活動がもとで自然環境が息も絶え絶えな状態になっている現実が頭をよぎります。
将来の子どもたちはゾウに出会うことができるのでしょうか。
「ちょっと前までこんな大きな動物がいたんだよ」と子どもに話す未来が来てほしくはありません。
私たち大人は、次の世代を担う子どもたちに健全な地球を引き継ぐ責任があります。動物園がそのためにできることはたくさんあるはずです。ゾウ、サイ、キリンが今の子どもたちを魅了しているように、将来の子どもたちも間近に野生動物を見て、素晴らしいなと感じ、いろいろな疑問がもてる世界を伝えていくべきです。
子どもたちから寄せられた質問を分析すると、彼らがどんなことに疑問を持っているかがわかります。動物園の展示や教育活動を通してこれらの疑問に答えることが大切です。更に、動物園は人々が野生動物と共存するにはどうすればよいかを考える場となってほしいと思います。
動物園がどう活動していくかによって、動物園の未来が決まります。巨人軍の長嶋選手は「わが巨人軍は永遠に不滅です」の名言を残しましたが、動物園の未来はそれほど単純ではありません。野生動物との共存を目指して時代の先端を走る動物園を実現するために、私も努力していきたいと思います。
寄稿者profile
成島悦雄(なるしま えつお 1949年 -)
略歴
獣医師・東京都井の頭自然文化園の元園長。栃木県栃木市出身。
1972年、東京農工大学農学部獣医学科卒業。同年、東京都庁に就職し上野動物園飼育課配属。以後、多摩動物公園、上野動物園の動物病院獣医師、多摩動物公園飼育展示課長等を経て2010年~2015年、井の頭自然文化園園長。2014年~2020年日本獣医生命科学大学客員教授、2016年~2022年、日本動物園水族館協会専務理事、現在、日本動物園水族館協会顧問。2013年からNHKラジオ子ども科学電話相談の動物部門回答者を務めている。
著書
・「動物園のかん者たち」(農文協)」
・「珍獣図鑑 」(ハッピーオウル社)
編著
・「大人のための動物園ガイド」(養賢堂)
・「動物園学入門」(朝倉書店)など