動物園を設計しているTONZAKOデザインが、世界の動物園について、設計者の視点から、紹介していきます。その前に、動物園に関わる言葉について、整理しておこうと思います。
Contents (記事内容)
- 動物園の展示手法
- 展示手法のまとめ
1.動物園の展示手法
動物園の展示手法は、各パドックまたは、展示配列の各エリアで展開します。パドックの意匠や空間的構造、施設構造物、植栽などについて、ある一定の考え方に基づいて整備を行います。
以下に代表的な展示手法を示します。
1-1.ランドスケープイマージョン展示手法
ランドスケープイマージョンは、「動物が生息している自然環境の中に迷い込んだような感覚を観覧者に与える」修景手法です。「ランドスケープ」は景観で、「イマージョン」は浸し込むという意味となります。
この手法はアメリカのウッドランドパーク動物園の再生プランの際に設計会社の主要メンバーであったJones Coeが提唱したと言われています。
ランドスケープイマージョンは、その後アメリカの様々な動物園で展開され、中でもブロンクス動物園のゴリラの展示、「コンゴの森」は秀逸な作品であると言われています。
動物園では、動物が生息している環境と同一の植栽や土壌、岩石などを持ち込むことは難しいです。そのため、動物園が立地する環境で生育できる植物から、現地の景観と類似した植物を選定し、入手できる岩や擬岩で景観を造園的に作っていきます。
この設計段階では、動物、植物、地質など多様な専門家による調査が行われ、より現地の景観に近い修景手法が検討されます。
ランドスケープイマージョンは、観覧者に非日常景観を提供するとともに、動物が生息している環境を理解しやすいメリットがあります。
一方で、動物の生息地の再現のためには、ある程度の広さが必要であること、人工的な構造物を遮蔽するため擬岩や擬木などの修景要素が多いことにより、コストがかかる展示手法となります。
1-2.生態的展示、環境一体型展示手法
生態的展示や環境一体型展示は、ランドスケープイマージョンを参考に日本で展開する際に用いられた展示手法です。日本では、多摩動物園や上野動物園の「ゴリラ・トラの住む森」やよこはま動物園ズーラシア等において、初期に導入されました。
動物の生息地の環境をパドック、観覧園路を含め一体的に再現し、動物とその生息地の環境を感覚的に伝えていきます。
ランドスケープイマージョンと同じような展示手法ですが、コスト面、敷地の制約、園路幅の確保などの面から、ランドスケープイマージョンほどの生息地に迷い込んだような感覚を提供するには至っていません。しかし、近年では徐々に、その修景技術も向上しています。
生態的展示や環境一体型展示は、観覧者に非日常景観を提供するとともに、動物が生息している環境を理解しやすいメリットがあります。
一方で、動物の生息地の再現のためには、ある程度の広さが必要であること、人工的な構造物を遮蔽するため擬岩や擬木などの修景要素が多いことにより、コストがかかる展示手法となります。
1-3.行動展示手法
行動展示は、動物が生息地で行っている行動をわかりやすく体感できる展示手法です。この手法は、スイスのヘディガーという生態学者が提示した考え方で、旭山動物園での実践により、有名になりました。
動物は、生息地の環境や動物の生態により様々な行動を行います。行動展示では、様々な行動の内、その動物の特徴となる行動に特化して表現することが多くなります。元祖となる旭山動物園では、「動物のイキイキした姿を見せる」という理念のもと、動物の行動を見せています。
行動展示では、アクリルパイプや鉄骨の構造物などを利用しているケースが多くなっていますが、必ずしも人工材料を利用しなくても構いません。コストや構造的に人工材料が利用しやすいため、そのような形態になっています。
現在では、様々な動物園で行動展示は取り入れられています。行動展示は、動物の特徴的な行動を見せるという面で、動物が動く姿を楽しめます。そのため、動物への興味が湧きやすく、多くの人が動物への共感を得やすいことがメリットとなります。
一方で、施設的になりやすく、動物の生息地の環境の体感や理解は得にくい面、コスト的に高くなりやすい面などがデメリットとなります。
1-4.通景とパノラマ展示手法
通景とパノラマ展示手法は、ドイツのカール・ハーゲンベックが提唱し、20世紀初頭にハーゲンベック動物園で実践した展示手法です。
パノラマ展示では、いくつかのパドックをモート(空堀)で区切り、手前から奥に向かうにつれて、だんだんと高くなっていくようにパドックを配置します。獣舎や観覧者の姿を遮蔽します。観覧園路からは、動物の生息地のように、多様な動物の姿を望むことができる展示手法です。この観覧園路から奥の動物まで見えるように景観を通すことを通景と言います。
草食動物と肉食動物を一つの風景に収めることで、食物連鎖などをわかりやすく伝えることができます。通景ポイントは1か所だけでなく、何か所も取ることは可能です。動物と動物の関係性などを体感しやすい点がメリットとなります。また、背景が広いため、パドックの狭さを感じにくいメリットもあります。
獣舎を隠すために、パノラマ展示初期は岩山などをつくっており、空堀の構造も大きく、構造体の面でコストが高くなりやすい点がデメリットです。
1-5.混合展示手法
混合展示は、数種の動物を同じパドック内で飼育展示する展示手法です。どちらかというと展示手法というより、飼育管理手法といった方がいいかもしれません。しかし、混合飼育した場合、パドックやバリアなどの整備上の配慮事項があります。
数種の動物をパドックで飼育する場合、最も逃亡防止対策が高度な動物に、モートの高さや壁の高さ、モートの幅、構造的な強度などを合わせます。いかにともに飼育展示している動物にとって過剰であっても、最大の配慮が必要となります。
また、動物間で、立場的に強い動物、弱い動物が生じます。これは動物の年齢によっても変わってきます。弱い立場の動物が、強い立場の動物から避難できるエリアを設けておくことが重要となります。
混合展示は、動物同士の社会的関係により、動物が動きやすいメリットがあります。また、自然界では同じような環境に生息する動物の関係性を理解する上でも効果的です。
一方で、動物はそれぞれに個性があり、その個性によっては合わないケースもあり、十分な馴致や観察も必要となります。
1-6.半受水展示手法
半受水展示は、水中に入る動物を水面の横から見せる展示手法です。水族館では観覧面の上部まで水で満たす展示が多いですが、動物園では半分程度まで水中という展示が多くなります。
動物の水中の動きを見せるという点で優れています。動物は、水から顔を出し呼吸をするため、半分まで水中とすることで、息をしている様子も観察できます。また、水面の背景には陸上のパドックを設けるケースが多く、陸上のパドックの様子が見れる、水に飛び込む様子が見れるなどのメリットもあります。
水中でも間近で見せるため、池底にお立ち台のような岩を設置し、そこで容易に息ができるような配慮も行います。
水中の様子を見せるためには、水の透明度も重要となります。カバなどは水中で糞をするため、水が濁ります。汚濁物に対して、水量を多くしたり、充実したろ過装置を設置するなどして、水質を維持します。
そのため、建設コストが割高になります。また水の入れ替えも必要でイニシャルコストもかかることがデメリットです。
2.展示手法のまとめ
ここで示した展示手法は、パノラマ展示+生態的展示など、組み合わせでも使用します。また、ここで示した展示手法に該当しない展示手法もあります。
基本的に動物がイキイキと動き回り、動物の生息地の環境との関係性をわかりやすく体感できる展示が良い展示手法なのではないでしょうか。
TONZAKOデザインは下記のような時にお声がけをいただいています。お気軽にお問い合わせください。
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