第3回 :『ライバルをもつ』
50年前になるけど旭山動物園に隣接する森に入っていくと、エゾライチョウがあちこちにいた。初めて見た。興奮して先輩に報告すると「あっそう、当たり前だべ」とそっけない。
でも、新米の僕ら(私とコスゲ)は、なんとか捕獲・飼育・展示したいものだとしたが、かなわなかった。
10年後、上野動物園で小宮さんが自慢たらたらに言った。
「アベくん、いいもの見せてやろう。ほら、エゾライチョウのヒナだ」
くやしかった。
“ よし、では今度こそナキウサギだ ” と大雪山連峰に通った。たくさんいたけれどなかなか捕獲・飼育・展示にはいたらなかった。
ある日、多摩動物園に行くと、またしても小宮さんが言った。
「アベくん、いいもの見せてあげよう。ほら、ナキウサギだ」
エゾナキウサギではなく、アフガンナキウサギだったが、ちゃんと展示飼育していた。くやしかった。 という訳で、他園との切磋琢磨はとても大切なことだと悟ったのでした。
ところで、動物園の飼育係をやめて、もう20年もたつというのに、今でもよく同じ夢をみる。動物に逃げられる“ 夢 ” だ。
ウサギやリスではありません。
ライオン、トラ、ヒグマ、オオカミ、ヒョウ…いわゆる猛獣です。
鍵をかけ忘れたのです。逃げ出てきたのです。
実際、何度か鍵を忘れました。
ああ、思い出す。
ああ、おそろしい。
ゆうべもみました。囲まれました。
『前門の獅子、後門の虎』でした。
汗、びっしょり!
寄稿者profile
あべ弘士(あべひろし、1948年-)
略歴
1948年 北海道旭川市生まれ。旭川市在住。
1972年から25年間、旭山動物園の飼育係として様々な動物を担当する。飼育係たちの間で話し合った“行動展示”の夢を絵として残し、旭山動物園復活の鍵となった。1996年動物園を退職し、現在は絵本制作を中心に、全国でワークショップなども行なっている。2011年には、こどもも大人も楽しめるアートスペース「ギャラリープルプル」の運営をはじめた。
著書に『あらしのよるに 』(講談社出版文化賞絵本賞受賞)、『ゴリラにっき』(小学館児童出版文化賞受賞)、『宮澤賢治「旭川。」より』(経産児童出版文化賞美術賞受賞)、『クマと少年』(日本児童ペン賞絵本賞・北海道ゆかりの絵本大賞受賞)など250冊を超える。
著書
・「あらしのよるに」講談社
・「どうぶつえんガイド」福音館書店
・「クマと少年」ブロンズ新社
・「新世界へ」偕成社
・「エゾオオカミ物語」講談社
その他多数