蝉の抜け殻
蝉の抜け殻を見たことがない、という人はあまりいないと思います。
蝉が騒がしい夏には、公園や緑地の木陰などで、木の幹や丈の高い草の茎や葉の先に、羽化を終えた蝉の抜け殻が残されているのを見かけます。
あの蝉の抜け殻は、蝉も死んで、秋になり冬になったとき、どうなっているのでしょうか。
わたしの家の庭にもたくさんの抜け殻が観察できますが、春先に庭いじりをはじめたときも、まだ、抜け殻がころころとその辺に変わらずに落ちているのを見ます。
今年は雪も少なかったせいか、余計に冬越しの蝉の抜け殻が多く転がっているように感じます。暑い夏に菌類にも分解されず、氷点下10度にもなる寒い冬にも霜や氷や雪に崩されず、綺麗に残されています。
どれだけ頑丈な殻なんだ! と驚きます。
頑丈な抜け殻のワケ
蝉の抜け殻には、キチンと呼ばれる成分が多く含まれているそうです。このキチン質は、カニやエビなどの甲殻類や、蝉と同じ昆虫類の外殻として、植物のセルロースに似て、頑丈な分子構造をもっています。そのため、水はもちろん、酸やアルカリにも溶けにくく、抗菌性もあり、細菌などの分解にも対抗しています。
ズワイガニから食用となる身の部分を除いた殻からは、キチンが加工、製造され、医療材料として利用されています。素材としての柔軟性や頑丈さ、溶けにくさや抗菌性が重宝され、生物由来の安全性も相まって、食品・農業・環境・化粧品・繊維等々、さまざまな分野でキチンを使った製品の開発が進んでいます。
蝉の抜け殻は、カニと比べたら、まだそこまでの幅広い利用とまでは言えないかもしれませんが、古くから生薬としての効能が認められていたとか! こうした殻を何とかして利用できないものかと、いろいろ試す、古代の人間の発想と行動力にも驚かされますが、何年もの間、土中で蝉を守ってきたその殻には、人間が利用するだけではない尊厳が備わっているようにも感じられます。
この神秘的な蝉のシーンの話題は、また季節が巡ってから...。
Written by 倉方